大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和39年(オ)1179号 判決

上告人

安永晋

右訴訟代理人

吉田賢三

有富小一

被上告人

中霜栄八

ほか二名

右三名訴訟代理人

安田幹太

安田弘

主文

原判決中上告人に対して金員支払を命じた部分を破棄し、右部分につき、本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

原判決中その余の上告人敗訴部分に関する上告を棄却する。

前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人吉田賢二、同有富小一の上告理由第一点について。

論旨は、原判示A地域および同B地域がいずれも被上告人ら三名、上告人ならびに訴外田中光蔵、同安永長、同安永弥作および同中霜干城の合計八名の共有である大分県玖珠郡珠玖町大字日出生字浅尻三三〇〇番の一〇原野一町二反二四歩の範囲内に属する旨の原審の認定は、証拠に反するのみならず、審理不尽、理由不備の違法を犯したものであるという。しかし、原審挙示の証拠関係に照らせば、原審の右認定は、首肯するに足り、論旨は、ひつきようするに、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰するものであつて、採用するに足りない。

同第二点について。

論旨は、原審が被上告人らをそれぞれ原判示A地域の属する前記字浅尻三三〇〇番の一〇原野一町二反二四歩につき持分一〇分の一の共有者と認定しながら、右共有地上の立木の不法伐採による全損害額六万八一〇〇円の賠償を求めた被上告人らの請求をそのまま認容したのは、理由不備の違法を犯したものであるという。

よつて案ずるに、共有物に対する不法行為による損害賠償請求権は、各共有者が自己の持分に応じてのみこれを行使しうべきものであり、他人の持分に対してはなんら請求権を有するものではない。従つて、共有の立木が不法に伐採されたことを理由として共有者の全員またはその一部の者から右不法伐採者に対してその損害賠償を求める場合には、右共有者がそれぞれその共有持分の割合に応じてこれをなすべきものであり、右共有持分の割合をこえて請求をすることは許されないところといわなければならない。ところで、原判決によれば、被上告人らは本件立木の生立していた原判示A地域の属する前記字浅尻三三〇〇番の一〇原野についてそれぞれ一〇分の一の共有持分を有していたというのであり、土地の上に生立する立木は権原により付属させた等の特段の事情のないかぎり、地盤に附合して地盤所有者の所有に帰するものであるから、特段の事情の認定されていない本件においては、被上告人らが本件立木について有する共有持分はそれぞれ一〇分の一にすぎないことが窺われないでもない。しかも他面、原審は右原野の共有者は上告人を含む前掲八名であると認定しており、さらに、被上告人らの主張に照らせば、原審は本件立木の所有者中に上告人が含まれない旨を認定したかのようにも窺われるのであつて、これらの点より考えれば、原審は、被上告人らの本件立木の共有持分の割合について、なんらこれを明確にするところがないものというべく、しかも、被上告人ら三名のみが本件立木の伐採による全損害額の賠償を求めたのに対して、これをそのまま認容しているのである。これをひつきようするに、原審は被上告人らの本件立木の共有持分がいかなる割合であるかを確定することなく、漫然被上告人らのなした本件立木の伐採による全損害額の賠償請求を認容しているのであつて、なにゆえに被上告人らのみで全損害額の賠償を求めうるのか、その理由とするところを知り得ないのであり、原判決にはこの点において審理不尽ないし理由不備の違法があるものといわざるを得ない。従つて、原判決中上告人に対して金員支払を命じた部分は破棄を免れないから、論旨は結局理由がある。しかして、本件は、右破棄部分に関し、叙上の点についてさらに審理を尽くす必要があるものと認められるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(松田二郎 入江俊郎 長部謹吾 岩田誠)

上告代理人吉田賢三、同有富小一の上告理由

第二点 原判決は「控訴人(上告人)が被控訴人(被上告人)等主張日時に係争A地域において被控訴人等主張の如く松、栗両立木を伐採したこと、当時の右立木価格が被控訴人主張どおりであることは本件当事者間に争のないところである。そして前段認定の事実にかんがみれば反証のない限り控訴人の右伐採行為は不法行為として少くともこれにつき過失の責任あるを免れず、したがつて右立木を所有する被控訴人等共有者に対し損害賠償として右立木の価格相当金六万八、一〇〇円を支払うべき義務あるものというに妨げない。」「右地域ひいてはその地上立木の共有者として前記立木の不法伐採に因る損害賠償金六万八、一〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の翌日たることを記録上明らかな昭和三〇年一一月二四日以降完済に至るまで年五分の割合による損害金の各支払を求める本訴請求は理由があり、これを認容すべきである。」として、上告人のこの点についての控訴も棄却した。

しかし、原審認定の事実によれば、被上告人等は持分各十分の一の共有者である。そうすると、立木はすでに処分されていて、本件で被上告人等が上告人に請求しているのはその不法行為に基く損害賠償金であるから、被上告人等が上告人に対し有する損害賠償請求金は各自持分に対応する金額すなわち各自六、八一〇円でなければならぬ。けだし、被上告人等各自が蒙つた損害額は、六万八、一〇〇円の十分の一であり、損害賠償制度は被害者がうけた損害を補填することを目的とするものであるから、被上告人各自の損害をそれぞれ補填すれば目的を達するからである。

しかるに、原審が、上告人は被上告人等に対し六万八、一〇〇円を支払うべきものとした理由不備の裁判というべく破棄を免かれない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例